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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)64号 判決

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨および本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 そこで原告主張の審決を取消すべき事由の有無について判断する。

(一) 誘導用凹路について

誘導用凹路が、一般に映画フイルム接合機においてフイルム案内装置として慣用的に使用される周知の構成である事実は、原告も認めて争わないところ、成立に争いのない甲第四号証によれば、周知の構成と認められる参照例記載の映画フイルム接合機における誘導用凹路も、フイルムを誘導するとともにこれを一直線にならべる目的、作用をも有することをうかがうに足りる。したがつて、前記周知の構成のものが本願発明における誘導用凹路の構成と、その目的、作用効果において別異のものであるということはできない。また、前記甲第四号証によれば、参照例記載の映画フイルム接合機の誘導用凹路が原告主張のごとく二箇の部分に切断され、その各部分がいずれも同転するように構成されている事実が認められるが、その各箇の誘導用凹路自体の構成においては本願発明のものと実質的に異なるところはなく、フイルムの一直線性は帰するところ、誘導用凹路によつて確保されるものである。したがつて、参照例記載のものと本願発明のものとに構成上若干の差異があるからといつて、本願発明にかかる誘導用凹路の構成が映画フイルム接合機において周知のものでないとはいえない。

(二) 下面用テープの省略について

原告は、引用例のものにおいて、フイルムの下面用のテープを省略すれば、添接フイルムを正確に一直線にし、かつ、その両端を正しく合わせるという添接機における重要な課題を放棄することとなる旨主張する。しかし、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例のものにおいても、受台(2)上に四箇のフイルム位置決めピン(43)が設けられ、それによつて、フイルムを受台に固定することを目的としているものと解されるのであつて、原告主張のように下面用のテープの使用目的がフイルムを受台に固定することにあるものと解することはできない。

したがつて、引用例のものが下面用テープの使用を不可欠のものとする技術を対象としていると解することはできず、下面用テープを省略して上面用テープのみでフイルムを接合することによる効果も、その構成に由来する一般的な作用効果であるにすぎず、予測可能の範囲をこえるものではない。そして、下面用テープを省略して上面用テープのみでフイルムを添接することに技術的困難性を伴うとみられる特段の事情も認められない。それゆえ、引用例には上面用テープのみを用いてフイルムを添接する技術をも示唆するものがあると認められる。

(三) 支持体について

前記甲第三号証によれば、引用例の装置においても、接着すべきフイルムの端部上の所定位置に接着用透明テープを支持する装置が設けられるべきことが要件とされ(特許請求の範囲第六項参照)、その実施例として、カム(70)と板(73)でセロフアンテープ(7)、(8)の端部を押え、テープを固定する装置が示されているが、その明細書第二図によれば、テープの他端はいわゆるテープロールハウジングの開口の上縁において支持されていることをうかがうことができる。原告は、引用例のものにおいては、押圧板を使用するときは、ロールハウジングの開口のところにおけるテープの支持も失われる旨主張するが、前記甲第三号証によれば、押圧板(15)がテープ(8)に接触することによつて直ちにテープロールハウジングの開口上縁における支持が失われるものではなく、ある程度の押圧が進行してはじめてテープがテープロールハウジングの開口上縁から離脱するものであることがうかがわれる。そして、テープが支持体より離脱してから接着するまでの距離についてみれば、引用例のものと本願のものとではその差は微かな差にしかすぎない。また、前記甲第三号証によれば、引用例のものにおいても、テープの一端が支持体より離脱後においても、他の一端は依然として支持されたまま、支持を失つた一端も押圧板によつて押圧されつつ降下するものであるから、これを全体としてみれば、テープは当初固定された位置に従つて緊張したまま接着状態に至るものと認められる。したがつて、引用例のものと本願発明のものとの間に、その構成、作用効果において著しい相異があるものとは認められない。

(四) 押圧プレートについて

1 原告は、本願発明における押圧プレートはそれ自体が添接すべき結合部を固定し押圧するものでなければならないと主張し、成立に争いのない甲第二号証によれば、本願発明の実施例として、押圧プレートは単にダイプレートの上に置けば自然の力によつてフイルム結合部を固定する作用を有する構成のものが記載されていることが認められる。しかし、これは、単なる実施例の一場合にすぎず、その特許請求の範囲にはこのように限定した記載は見られない。したがつて、本願発明の押圧プレートの構成が原告主張のとおりであることを前提として、引用例の押圧板が本願発明のものと異なるとした原告の主張は、既にこの点において採用することができない。

2 そして、前記甲第三号証によれば、引用例のものにおいては、押圧頭部(11)が押し下げられると、押圧板(15)がフイルム接合部を押圧固定し、ついでばね(60)が圧縮されて、パンチ(14)、切断刃(13)が突出して孔あけおよび切断を行ない、押圧頭部(11)を解放すると、押圧頭部板(12)は上昇するが、押圧板(15)は、ばね(60)の作用によつて依然、フイルム接合部を押圧し、パンチおよび切断刃が引込むと、押圧板(15)は、その螺子頭(58)が押圧頭部(12)の凹みソケツト(59)の底部に係合されて押圧頭部とともに上昇するよう構成されている事実を認めることができる。したがつて、引用例記載の押圧板も、本願発明の押圧プレートと同様に「パンチと切断刃の作用に先立つて添接すべき結合部を固定し」、「パンチが孔から引出される間その結合部を押圧している」という構成を具えているということができる。それゆえ、引用例がこれらの構成を欠き本願発明と構成上の相違があるとする原告の主張も理由がないことは明らかである。

3 次に、原告は、本願発明の押圧プレートが誘導用凹路内に嵌合するように構成されていることを前提として引用例のものと比較対照しているが、前記甲第二号証によれば、本願発明について原告主張のこのような構成は、実施例の一態様を示したものにすぎず、特許請求の範囲において限定されたものではないことが認められる。したがつて、原告の主張は、本願発明の要旨にそわない事実に基づくものであつて採用することができない。のみならず、前記甲第三号証によれば、引用例のものにおいても、押圧杆(9)の長さは可成り長いのであるから、切断作用の前後においても、押圧板(15)の動作は、受台(2)と平行に移動するのと殆んど同様の動作を示すものと認められる。それゆえ、引用例のものと、本願発明の実施例のものとを比較しても、その構成、作用効果において、原告主張のように顕著な差異があるものと認めることはできない。

(五) パンチおよび両側切断刃について

原告の所論は、本願発明の一実施例のものの構成と引用例記載のものの構成との比較を前提にするものであることは、前記甲第二号証の記載に照らして明らかである。本願発明のパンチは、「ベース上に蝶着支持された部材上に設けられ、しかして、添接する部分の孔の前後の押圧プレートの開口を通過する」ものであり、本願発明の両側切断刃が「パンチとそれらの支持部材上にあつて、フイルム添接に要する接着テープの長さに相当する距離だけ相互にはなれて位置している」ものであることは、当事者間に争いがないところ、前記甲第三号証によれば、引用例のものがこれと同様な構成のものをそなえている事実を認めることができる。したがつて、原告の主張は、本願発明の要旨にそわない事実を前提とするものであつて、採用することができない。

(六) 予備的主張について

前記甲第二号証によれば、原告が本願発明の特段の作用効果として主張しているところは、本願発明の要旨をなす前記(1)から(5)までの構成がもたらす通常の作用効果にすぎないと認められ、それ以上に、各構成の結合により特段の作用効果が生ずると認めるに足りる証拠はない。したがつて、本願発明が各構成の結合による特段の作用効果を有することを前提に審決の違法をいう原告の主張は、採用しがたい。

三 以上のとおり、本件審決には原告主張のごとき違法はなく、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は失当であるから棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願発明の要旨

(1) べースと側壁がダイプレートの規制ピンと共動してフイルムを一線にならべる作動をするように、添接フイルム幅に等しい幅に凹設された誘導路内に取付けられた下側ダイプレートと、(2)添接すべき結合部分の上に接着テープを位置させるためのダイプレート両側に設けた支持体と、(3)パンチと切断刃の作用に先立つて添接すべき結合部を固定し、そして、パンチが孔から引出される間その結合部を押圧している押圧プレートと、(4)ベース上に蝶着支持された部材上に設けられ、しかして、添接する部分の孔の前後の押圧プレートの開口を通過するパンチと、(5)パンチとそれらの支持部材上にあつて、フイルム添接に要する接着テープの長さに相当する距離だけ相互にはなれて位置している両側切断刃とからなることを特徴とする、映画フイルムを接着テープで添接する装置。

本件審決理由の要点

本願発明の要旨は、前項記載のとおりであるところ、本願発明と米国特許第二五六五〇〇九号明細書(以下「引用例」という。)記載の技術内容とを比較すれば、(1)本願発明は、下側ダイプレートにフイルム誘導用凹路を設けているのに対し、引用例では、フイルム幅に等しい幅に凹設された誘導路を備えていない点(2)本願発明は、テープ支持体をダイプレートの両側に設けたのに対し、引用例のものでは、ダイプレートの一側に支持体を設けてあるが、他側は、テープロールのカバーの端部で支持されるようになつている点で差異がある。そして、本願発明は、フイルムの片面上方においてテープを接着するものであり、引用例のものは、フイルムの上下両面において同時にテープを接着するようにしたものである点で差異はあるが、引用例のものもフイルムの上面においてテープを接着する構成を備えているほか、両者は、その他の点ではすべて一致する。

しかるところ、差異点(1)の下側ダイプレートに誘導用凹路を設けた点については、フイルム案内装置として慣用的に使用される構成であるばかりでなく、映画フイルム接合機においても周知の事項であるから、引用例で示された規制ピンに加えてさらに誘導用凹路を設けた点は、単なる設計上の変更にすぎない。

差異点(2)のテープ支持体を下側ダイプレート両側に設けた点については、ダイプレートの両側に支持体を設けることにより、接着テープをロールから引出してフイルムに接触させずに正確に接着部に位置させることができる作用効果を生じるにしても、引用例のものでも、上側テープについては、ロールから引出されたテープが、テープロールハウジングの開口の上縁とロツク装置とによつて、下側ダイプレートの両側において支持され、フイルムに接触させずに接着部上方に位置させることができ、この点に特有の作用効果を認めることはできない。

また、引用例のフイルムの上下に、同時にテープを接着する形式のものに代えて、単に上方のみの一面テープを接着する形式とすることは、下面用テープを単に省いたにすぎないから、引用例に示された技術内容から容易に考えられることであり、結局、このような形式のものにおいて、テープ支持体をダイプレートの両側に設けることは、単なる設計上の変更にすぎない。

したがつて、本願発明は、全体として、引用例に示された技術内容から容易に発明することができたもので、特許法第二九条第二項の規定によつて、特許することができない。

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